AI Voice サポートセンターは
どうやって動いているのか
電話の向こうで「聞く・調べる・判断する・つなぐ」を 1 人でこなす AI オペレーター。その構成と、人間の担当者との役割分担を、専門用語なしで説明します。
24 時間起きている受付係と、その後ろの専門家チーム
ホテルのフロントを想像してください。受付係はお客様の話を聞き、手元のマニュアルを引き、自分で答えられることはその場で答え、答えられないことは適切な担当者に「引き継ぎメモ」を付けて回します。AI Voice サポートセンターはこの受付係を AI にしたものです。違いは、24 時間眠らず、日本語・英語・ベトナム語を聞き分け、電話を切った瞬間にチケットと記録が残っていることです。
1 本の電話を最初から最後まで追う
デモで使っている実際のケースです。北斗フーズ株式会社 (プレミアムプラン・24/7 契約) の高橋様から「Outlook にサインインできない」という電話が入ったとします。
- 受付 (聞き取り)「北斗フーズの高橋です。Outlook にサインインできなくなりました」record_understanding → identify_customer(会社名) → 契約 C-2024-0117 / プレミアム / 24 時間対応 を確認
- 内容理解AI は分からない点を 1 つだけ確認します。「高橋様お一人だけでしょうか、それとも複数の方でしょうか」
- Knowledge 検索お客様の言葉を日本語キーワードに直して社内ナレッジを検索。複数ユーザーの症状なら Microsoft 365 の障害情報も同時に確認search_knowledge("Outlook サインイン パスワード") → KB 記事 + 推奨アクション / check_service_status()
- 判断とチケット起票ナレッジの推奨アクションに従い、自動回答か、L1 / L2 / 営業へのエスカレーションかを決め、話す前にチケットを作成create_ticket(...) → CS-0825-0001 / escalate_ticket(L1 / L2 / SALES)
- 回答生成「パスワードをリセットしてから再度サインインをお試しください。チケット番号は CS-0825-0001 です。解決しましたか」
システム構成図
4 つの層で構成されています。お客様の声はブラウザ (将来は電話回線) から音声のまま AI に流れ、AI は「ツール」と呼ばれる窓口を通じて業務システムを読み書きします。
各層の役割
| 層 | 役割 | 今回のデモでの実装 |
|---|---|---|
| ① お客様 | 電話または Web ブラウザのマイクで話す | ブラウザ (PC / スマホ)。電話回線 (PSTN / SIP) 接続は次フェーズ |
| ② 音声フロントエンド | 音声を AI に届け、返答音声を再生。認証キーを守る | Cloudflare Pages + Functions。API キーはサーバー側のみ、ブラウザには 1 回限りの短命トークンだけ渡す |
| ③ AI Agent | 音声を直接理解し、ルールに従って調べ・判断し、音声で返答 | Google Gemini Live (ネイティブ音声モデル)。日本語優先、英語・ベトナム語対応 |
| ④ 業務システム | 契約情報、ナレッジ、チケット | デモ用データ (架空 3 社・FAQ 14 記事)。本番では Customer の CRM / ナレッジ / チケットシステムに接続 |
| ⑤ 振り分け | AI 解決 / L1 / L2 / 営業 | ナレッジ記事ごとの推奨アクションで決定。セキュリティ・全社障害は即 L2 |
native audio モデルを使います。そのため応答が速く、言い直しや相づちに自然に反応します。画面の字幕は補助的な別サービスで、AI の理解そのものは record_understanding ツールで AI 自身が書き出したものを表示しています。AI Agent はどう判断しているのか
AI は自由に振る舞うのではなく、「必ずこの順番で、これらの道具を使う」という運用ルール (システム指示) の中で動きます。判断の根拠はナレッジ記事に書かれた推奨アクションで、AI が勝手に手順や番号を作ることは禁止しています。
AI が守っている「絶対ルール」
| ルール | なぜ必要か |
|---|---|
| 回答の前に必ずナレッジを検索する | AI の記憶ではなく、Customer が管理する情報だけを根拠にするため |
| チケット番号はシステムが発行したものだけを読み上げる | AI が番号を「それらしく」作ってしまう事故を防ぐため |
| 確認は 1 問まで、1 回の発話は 3 文以内 | 電話らしいテンポを保ち、お客様を待たせないため |
| 分からないことは正直に伝えてエスカレーション | 無理に解決しようとして誤案内するより、人に渡す方が安全 |
| 聞き取った内容を毎回記録する | 「AI が何を理解したか」を画面と記録で検証できるようにするため |
「話せる AI コールセンター」の 4 つの作り方
Fabbi は 2026 年に入ってから、音声 AI エージェントの主要な実装方式を実際に構築・検証してきました。方式の違いは、突き詰めると一つの問いに集約されます。お客様の声を 1 つの AI モデルに直接入れるのか、それとも「聞く → 考える → 話す」の 3 段階に分けて処理するのか。この選択が、会話の自然さ・対応言語・業務連携・運用コストのすべてを決めます。
1 つのモデルが音声を直接聞き、直接話す。文字変換を介さないため声の調子やためらいまで理解し、同時に業務ツール (契約照会・ナレッジ・チケット) を呼び出せる。
- 強み: 日・英・越が最初から使える、音声サーバー不要で運用が最軽量、ツール連携が標準
- 弱み: 発話の切れ目を待つため 0.4〜0.9 秒の「間」が出る、音声データがクラウド事業者を経由する
- Fabbi の実績: 本デモ (このページのシステム) を構築・公開中
「話す番・聞く番」の概念が無く、人のように相づちを打ち、被せて話し、割り込みに 0.2 秒で反応する。モデルは自社 GPU 上で動き、音声データは社外に出ない。
- 強み: 会話の自然さは 4 方式で最高、データ主権を完全に確保
- 弱み: 現行版は英語のみ、業務ツール呼び出し機能が無い (通話後に文字起こしから処理)、GPU を常時稼働 (通話が無くても費用発生)
- Fabbi の実績: 技術評価済み。多言語版の登場を追跡中
音声認識 (STT)、思考 (LLM)、音声合成 (TTS) を別々の部品として組み合わせる。各部品を最適なベンダーから選び、いつでも差し替えられる。
- 強み: 日本語専用の高品質 STT / TTS を選べる、最も賢い LLM を使える、ベンダーに縛られない、電話回線 (SIP) 連携が標準
- 弱み: 3 段階の遅延が積み重なり 0.5〜0.9 秒、文字にした時点で声の調子が失われる、運用する部品が増える
- Fabbi の実績: 2026 年 4 月にこの方式の MVP を構築・稼働済み。同じ業務ツールとナレッジを流用可能
管理画面で STT / LLM / TTS をメニューから選び、プロンプトとナレッジを登録すれば電話番号付きで動く。業務連携は Webhook。
- 強み: 1〜2 日で実電話番号まで立ち上がる、録音・分析・有人転送が最初から揃う
- 弱み: 基盤利用料 + モデル料の二重課金で最も高い、プロンプト・ナレッジ・通話ログが基盤側に置かれる、深いカスタマイズが難しい
- Fabbi の見解: 短期トライアル向け。本番の中核には推奨しない
Customer の要件で採点する
上の 3 行は Customer / 一次受付の必須条件 (満たさなければ候補から外れる)、それ以下は方式の得手不得手です。
| 評価軸 | A · ネイティブ音声 | B · 全二重 自社ホスト | C · STT+LLM+TTS | D · SaaS 基盤 |
|---|---|---|---|---|
| 日本語 · ベトナム語 | 対応 本デモで稼働中 | 不可 現行版は英語のみ | 最良 日越専用エンジンを選択可 | 要確認 日本語は多い、越は基盤次第 |
| 業務ツール連携 (契約 · ナレッジ · チケット) | 対応 音声と並行して 6 ツール稼働中 | 不可 通話後の後処理のみ | 対応 LLM 標準のツール呼び出し | 対応 Webhook (基盤の制約あり) |
| 運用負荷 | 最軽量 サーバー不要 | 重い GPU 常時稼働 + 自社更新 | 中 エージェントサーバー + 3 ベンダー | 軽い 代わりに依存が強い |
| 会話の自然さ | 良: 声の調子を理解、ただし 0.4〜0.9 秒の間 | 最良: 被せ発話、0.2 秒で反応 | やや劣る: 声の調子が失われ、遅延が積む | C と同等 (選ぶエンジン次第) |
| 判断の賢さ | 音声モデルの性能に依存 | 7B 級で限定的、知識はプロンプト内 | 最良: 最強の LLM を選べる | 良: メニューから LLM 選択 |
| 電話回線 (実番号) | Twilio 等を組み合わせて構築 | A と同様 + 中継サーバー | 標準機能 (SIP) | 管理画面で番号購入 |
| データ主権 · ベンダー自由度 | 音声がクラウド事業者を経由 | 完全自社内 | 部品ごとに選択、囲い込み無し | プロンプト · ナレッジ · ログが基盤側 |
| 変動コスト | 通話分数に比例 (音声トークン) | GPU 時間課金 (通話ゼロでも発生) | 3 社請求、大量通話では A より安くなりやすい | 最も高い (基盤料 + モデル料) |
| Fabbi の実装状況 | 稼働中 本デモ | 技術評価のみ | MVP 稼働済 2026 年 4 月 | 未着手 (必要性低) |
ユースケース別: どの課題にどの方式か
「一つを選んで他を捨てる」必要はありません。Fabbi が推奨するのは 主軸を 1 つ、代替を 1 つ、実験枠を 1 つ 持つ構成です。業務ツールとナレッジは方式に依存しない共通部品として作るため、音声の層だけを後から差し替えられます。
| お客様の状況 · 解きたい課題 | 推奨方式 | 理由と留意点 |
|---|---|---|
| 24 時間 365 日の一次受付を AI に任せ、契約確認 · ナレッジ回答 · チケット起票まで自動化したい (Customer の AI First Support) | A ネイティブ音声 | 日英越 + ツール連携 + 最軽量運用を今すぐ満たす唯一の方式。本デモがそのまま PoC の土台になる。自然さは切れ目待ち時間の調整でさらに改善可能。 |
| 音声データを特定クラウド事業者に出せない (社内規程 · 顧客契約 · 金融 / 医療系の要件) | C STT+LLM+TTS 完全オンプレなら B (英語限定) | 各部品を国内 / 自社指定ベンダーから選べる。日本語対応が必須なら B は現時点で不可。 |
| 日本語の音声品質を最優先 (ブランドボイス · IVR 置き換え · 高齢の利用者が多い) | C STT+LLM+TTS | 日本語専用の高品質 TTS / STT を選択できる。遅延 0.5〜0.9 秒は許容範囲か PoC で確認。 |
| 複雑な判断や長い規約の参照が中心 (契約 · 請求 · 法務寄りの問い合わせ) | C 最上位 LLM または A + 即エスカレーション | 思考部分に最も賢い LLM を使える。一次受付は A のまま、複雑案件だけ人 (L2 / 営業) に渡す設計でも十分な場合が多い。 |
| 数日以内に実電話番号でトライアルしたい、社内デモや効果測定が目的 | D SaaS 基盤 | 最速。ただしコストとデータ主権を手放すため、本番の中核には移行計画を前提に。 |
| 英語のみで、人と区別がつかない自然さを見せたい (海外拠点 · 営業デモ) | B 全二重 自社ホスト | 「未来の会話体験」を示す実験枠。業務連携は後処理になるため本番運用には不向き。多言語版が出れば主軸候補に昇格。 |
| 通話量が非常に多く、分単位のコストを最優先したい | C STT+LLM+TTS | 部品ごとに安価なベンダーを選べ、大量通話では A より有利になりやすい。まずは A で実通話量を把握してから判断。 |
| 既存の電話回線 · PBX に組み込むことが必須 | A + 音声ゲートウェイ または C (SIP 標準) | A は Twilio 等のゲートウェイを追加、C はフレームワークが SIP を標準搭載。どちらも Phase 2 で対応可能。 |
Customer への Fabbi の提案
導入ステップ (提案)
- Customer の実ナレッジ (FAQ / 手順書) を 20〜50 件投入
- Web ブラウザ経由で社内評価
- 聞き取り精度・判断精度を実通話ログで確認
- 電話回線 (PSTN / SIP) 接続
- チケットシステム・CRM と本接続
- L1 Fabbi Da Nang との引き継ぎ運用を確立
- KPI ダッシュボードで AI 解決率を継続監視
- ナレッジ改善サイクル (未解決案件 → 記事追加)
- 多言語 (英語 · ベトナム語) 対応の本格運用
数字で見る現在のデモ
デモ画面右側の KPI (受付件数・自動解決・エスカレーション・AI 解決率) は、通話のたびにチケットから自動集計されます。本番ではこの数字が「AI がどれだけ一次対応を吸収したか」の月次指標になります。
正直な限界と対策
- 聞き取り精度: 短い一言や強い訛りでは言語判定を誤ることがあります。対策として日本語固定モード、フルセンテンスでの発話案内、AI 自身による「聞き取り内容」の表示を入れています。
- 接続の安定性: AI 側のセッションがまれに切れることがあります。デモでは自動再接続 (最大 3 回) と会話履歴の引き継ぎで対応しています。
- 電話回線はまだ: 現在はブラウザ経由です。実際の電話番号での受付は Phase 2 で接続します。
- ナレッジ依存: AI はナレッジに無いことを答えません (答えさせません)。裏を返すと、ナレッジの品質がそのままサービス品質になります。
- これが最終形か: いいえ。まだ PoC です。実通話ログを見ながら、判断ルールとナレッジを Customer と一緒に育てていく前提です。